第6章 一大イベント(part. 1)
——
(嫌だな…。)
りんは手洗いの戸を閉めると立ったまま俯いた。
(純粋に祝ってもらいたいのに…お父さんとお母さんがこの場に加わったら不純なものになってしまいそう…。)
そう思うと槇寿郎と瑠火の優しい笑顔を思い出してしまう。
(嫌だな…。あんな優しい人達に会わせたくない……。)
次に自身の親の顔を思い浮かべてみる。
思い出した "それ" はどれもこちらを見ていないものばかりであった。
(でも…育ててもらった親をこんな風に思う恩知らずな私が一番嫌……。)
———コンコンッ
しばらくぼんやりとしていたりんは元気なノックの音にビクッと身を震わせた。
杏「大丈夫か!調子が優れないようなら今日はもう帰ろう!父上も母上も千寿郎も気を悪くしたりはしないので安心してくれ!!」
その言葉を聞くとりんは手洗いの戸をそっと開いた。
杏寿郎はりんの濡れた頬を見ると少し目を見開き、りんを優しく抱き寄せた。
杏「大丈夫だ。落ち着くまで少しここに居よう。」
りんは鼻を啜ると小さく頷いて杏寿郎の背中にしがみつくように腕を回したのだった。