第6章 一大イベント(part. 1)
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そうして杏寿郎の両親の笑顔を守りながら会話を重ねた結果、りんの外堀はすっかり埋められて完全な真っ平らになってしまった。
瑠「お茶を淹れ直しましょうか。」
「手伝います!」
りんはそうして話し合いの場から立つと小さく息をつき、そしてじわりと汗をかいた。
(…………あれ……?今日ってこんな予定じゃ…、)
瑠「りんさん。」
瑠火に名を呼ばれ、台所へ入ったりんはハッとして視線を上げた。
すると、りんの焦った顔を見ていた瑠火は眉尻を下げて少し申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
瑠「杏寿郎はもう三十手前になるというのにずっと浮いた話一つなく、あの人も私も心配していたのです。勿論、孫の顔が見たいという気持ちもありますが、」
そこで言葉を切ると瑠火は優しくりんの頬に白い手を添える。
瑠「…何より、貴女方の幸せを一番に願っていること、どうか忘れずにいて下さい。」
実の親にも言われた事のない言葉、向けられた事のない眼差しにりんの心が震えた。
そして、こんなにも温かな人達を少しでも厄介に思ってしまった自身を恥じた。
「……はい。ありがとうございます…お母様…。」
そう呼ばれた瑠火の口角が少しだけ上がる。
瑠(娘がいたらこんな感じだったのかしら…。)