第5章 華
——
杏(相変わらず良い匂いがするな。女性の部屋とは皆こうなのだろうか。)
一方、りんの部屋に着いた杏寿郎はそんな事を思っていた。
杏「失礼する!」
一応断りを入れてから玄関に上がると、何となくあまり周りを見ないようにしながらシンク前にしゃがみこんだ。
杏(……これだな。)
杏寿郎は土鍋を探し当てるとそれを取り出し、棚の戸を閉めた。
そして部屋を出ようとした時、気が緩んでちらりと視線を上げてしまった。
先程も見て知っていたが、テレビ前にあるオフホワイトのソファの上には可愛らしいクッションがいくつか並んでいる。
普段はそのクッションを胸に抱いたり、ソファでころんと横になったりしたりしているのだろうかと考えると、何となくいけない感情が湧いてきそうになって急いでその場をあとにした。
杏(彼女は俺を信頼して鍵を預けてくれたんだ。邪な事は彼女の前で堂々としよう!)
そんな厄介な事を考えると、杏寿郎は土鍋を片手で持ってドアを開けた。