第5章 華
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杏「腹が減ったな。」
りんが首元から顔を上げるタイミングを失っていると、杏寿郎がそう呟いた。
(そうだ…まだお夕飯を食べてない…。)
そう思うとりんはようやく顔を上げた。
「あの、私作ります。スーパーもまだまだ開いていますし…何か食べたい物はありますか?」
それを聞いた杏寿郎は口角だけを上げた笑顔のような表情を向けた。
杏「ちょっと来てくれ。」
そう言うと身を起こし、手を引いてりんをベッドから下ろした。
そして向かったのはキッチンだ。
杏「君の手料理は食べたいのだが、見ての通り何も無いに等しい。」
確かにキッチンだけ生活感が全く無い。
レンジもジャーも無ければ、ヤカンも見当たらないのに電気ケトルも無いのだ。
唯一あるのは大きく立派な冷蔵庫。
りんは許可を得るとそれを開けた。