第32章 黒の組織から来た女１

風見「まず椎奈さん、改めて彼女が保護対象で潜伏先との仲介役を依頼している灰原哀さんこと宮野志保さんです。そして椎奈さんのご紹介は……やっぱり不要ですね、有名人ですし」

椎奈「多分よっぽど興味がない人なら、知られてないと思うぐらいには知名度があると自負してます。それで、えっと初めまして……これからよろしくね

灰原「よろしくねって……どうして普通に笑っていられるの……？！」




そう言って困惑顔で呆然とし、不可解そうに私を見上げて尋ねる哀ちゃん。もとい宮野志保ちゃんに私は苦笑いで、少しでも本音を信用してもらう為に語った。きっとこの先、新一が幾つもの危険を超えて、組織の闇に着実に触れて、彼女に立ち向かう勇気が芽生えるだろう。それはあの子があの子だから出来た事だ、例えそこに身近な人が殺されかけた認識が不十分でも、それ以上に我が身を顧みずに命を掛けたが故のこと。だから新一の様に、だなんて身に合わぬ望みはない。ほんの少し心に留めるだけで良い。彼女には罪悪感と責任で悲観しないでほしいから、見方を変えた正当性があるのを知ってほしいから。




灰原「私は貴女の弟を殺しかけたのよ？なんで私を怒鳴らないの、毒殺者と協力なんて嫌でしょうに……」

椎奈「それでも直接あの子を殺そうとしたのはジンとウォッカだし、貴女は凶悪な科学者じゃないでしょう？薬が猛毒であると気づいて開発を中断させた」

灰原「だけど、私は止められなかったわ。貴女の弟さんだけじゃない、きっと多く人達が被害に遭う……彼奴らが使って！！」

椎奈「そうだね、確かに今後も組織の研究次第で大勢の被害が出るかもしれない……。新一は偶然薬の効果で生き残れたけど、全員がそうはならない。今後も何かが引き金になって死ぬかもしれない……。だけど新一薬が無ければ撲殺されていたわ、だから貴女を恨んでない。本物の悪人は罪悪感で涙を流さないもの……」

灰原「！！」




哀ちゃんは研究を進めた事を後悔し、いつの間にか殺人に加担してしまった事を嘆いていた。彼女は自分が招いた事態をきちんと受け入れ、償いはしても赦されるつもりないのだろう。けれど原作のように決して絶望しきっているわけじゃない、その瞳には組織に対する激しい憎悪が宿っていた。新一との初対面のやり取りの様な悪役ぶった態度もない。