第31章 可愛い妻の誘拐
side.名前
冥さんの言葉にドキッと心臓が跳ねた。
「亡くなった母にも…同じような事を言われました…」
「何を?」
「人を…疑いなさいと…」
「そうだね。名前自身は持っていないけど、君のバックにあるお金や権力を欲しがる輩は沢山いるだろうからね」
冥さんに言われて、ハッとなる。
そうだ。
大好きな悟さんがいつも守ってくれるから、
安心しきってた。
やっぱり私は未熟だな…
目を伏せると、冥さんに頭を撫でられる。
「すまない。虐めるつもりじゃなかったんだけどね」
「はい…ちゃんと理解しました…」
冥さんの言いたいことは、ちゃんと分かってる。
要するに私は、いつでも人質になる立場だということ。
小さい頃からそうだったのに、
五条家に嫁いでからが平和過ぎたんだ。
「名前。私の妹になる気はないかい?」
「えっ?」
「私なら名前が抱えている悩みを全て肩代わりしてあげるよ。それに君の家族も守ってあげる」
「…それは…」
悟さんと別れるということ?
確かに昔は頼れるお姉様が欲しかった。
あの殺伐とした寂しい家に、
一人でいるのは苦痛だったから。
きっとお姉様がいれば、
優しい家庭になるかも…。
そんな風に期待したこともあった。