第31章 可愛い妻の誘拐
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着いて行きたい。
お父様のお顔を見たい。
眠っているお姿でもいいから…
冥さんの言葉は願ってもない事だった。
ただ悟さんに何も伝えず、
勝手に父の所へ行ったら…
やっぱり怒られちゃうよね…
「何か問題でもあるの?」
「…あ…その…悟さんの…許しがないと…」
思い悩んでいると、
冥さんが私の顔を覗き込む。
無断で冥さんと出かける訳にはいかない。
そんな事をしたら、
きっと冥さんにも迷惑をかけてしまう。
「君は籠の中の鳥なのかな?」
「え?」
「歌姫が言っていた通りだね」
歌姫先生が何?
理解できず、首を傾げる。
「五条くんのことなら問題ないよ」
「本当ですか?」
「うん。私はこれでも一級呪師だからね。よく学生達の引率もするんだ」
「…でも…私の実力では…」
「先程の鍛錬を見る限り、何も問題はないよ。まあ、いざとなれば私が守ればいいだけだからね」
「本当ですか?」
「うん。私が君の引率者になればいい。学長には話を通しておくよ」
呪術の事も、お父様の事も、
誰にも相談できなかった事なのに…
冥さんは欲しい言葉を沢山くれる。
努力を評価して貰えた事も、
純粋に嬉しかった。
今まで無かったことだから…
「私、行きたいですっ!」
本音を伝えると、
冥さんは笑って頷いた。