第31章 可愛い妻の誘拐
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今朝、悟さんと朝食を取っている時。
ふと疑問に思ったことを聞いてみようと試みた。
「あ…悟さん、あのね…」
「何?オレンジジュースが飲みたいの?」
「あ、うん」
「そのコップ貸して」
言われるがままに、空のコップを渡す。
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
ジュースの入ったグラスを優しく渡される。
悟さんは紳士だ…。
ジュースを飲みながら、
ぽーッと見惚れてしまう。
って、違う。
「あ、悟さん。違うの」
「うん?朝食足りない?ゆで卵ならあるけど食べる?」
「あ、うん」
「はい。どうぞ」
「ありがとう」
って、それも違うの。
話があるの。
私がもたもたと話しているせいか、
朝の忙しない時間のせいか、
悟さんは閉鎖的な質問しかしてくれない。
私がいくら話を切り出そうとしても、
尽く流されてしまった。
あの一見以来、
お父様の病院には一度も行けていない。
お父様がどうなったのか知りたいのに…。
結局、きちんとお話をできないまま、
悟さんはお仕事へ行ってしまった。