第2章 男性客の正体は?
そのスピードに安は本当に舌を噛みそうになり、ぐっ、と口を閉じた。振り落とされないように、彼の胸元の服を握りしめた。
彼が止まったのは一軒の民家の前。大きな藤の花の模様が描いてあった。
「悪いが少し休ませてくれ。」
家主は二人を快く中に入れてくれた。客間に通され、お茶が出てくる。
「お兄さんは鬼狩様なんですね。」
お茶を一口飲んで、安はそんなことを言い出した。
彼は驚いたのか、むせてしまった。
「おまっ、なんでそれを」
「この家の藤の花の模様を見て思い出したんです。うちにも同じものがありました。母に聞くと、先祖が鬼狩様に助けられたと、鬼狩様の助けになるようにと教えられました。まぁ、実際に鬼狩様が来たことはありませんでしたが。」
ふとそこで彼は違和感に気づく。
「あの和菓子屋に藤の花の模様はないだろ。」
「藤の花の模様があったのは私の生家です。今の和菓子屋の女将さんと旦那さんは育ての親なんです。両親が流行病で亡くなった後に引き取られました。なんでも母と女将さんは幼なじみなんだそうです。」
安は少し寂しそうなそれでいて困ったように笑う。
「少しでも恩返しするためにお店で働かせてもらってるんです。」