第8章 音柱の任務と蝶屋敷の女主人
取り押さえられ暫くして、心が落ち着いた音羽は、天元に今回の鬼について聞いてみた。
「まぁ…端的に言うと、吸血鬼だな。」
「吸血鬼…ですか?」
鬼殺隊の長い歴史の中でも、人の生き血だけを好んで食す鬼の事例は、何件も報告されている。
「俺様が扱う案件にしては、ちーっとばかり地味だがな。」
「でも、柱が出てきたってことは、十二鬼月である可能性があるんですよね?」
「あぁ、まだはっきりしたことはわかってねーが、今回も調査に出た隊員が全員殺られてる。」
そう言うと天元は、これまでの経緯を掻い摘んで説明を始めた。
ことの発端は数ヶ月前。隅田川の上流に、男性の遺体が浮いていたことから始まった。その遺体は血の気の失せた青白い顔をしていたと言う。
遺体はすぐに解剖に回されたが、目立った外傷はなかったというのに体中の血だけが全て抜かれた状態だった。
ただ一つ目立った事と言えば、遺体の首筋には目打ちのようなもので刺されたような小さな穴だけが、鮮明に残っていたと言う。
このような不可解な事件は、国の裏の機関を通して、必ず鬼殺隊に情報が降りてくる。数名の隊員が調査に向かったが、すぐに隅田川に遺体が上がった。
それから遺体は徐々に下降し、つい一週間ほど前にこの浅草にほど近い、吾妻橋の近くでも上がったという。
「でも上がったのは隅田川ですよね?なんで河川敷じゃなくて、ここにいるんですか?」
浅草は隅田川沿いと言っても、六区は少し離れてる。そんな音羽の疑念は、天元がすぐに晴らしてくれた。
天元は路地裏から見える六区の大通り、その先の囲い覆われた大きな池に視線を向けた。
「それがな。二日前、そこにある瓢箪池でも、似たような死体が上がったんだよ。解剖結果はまだだがな、鬼は段々と移動してる。だから今日は、瓢箪池の周りで罠を張る。」
だが罠と言っても、この簡素な人形をどう使うつもりなのか?