第14章 擦れ違う心
最近の傾向から、自分が案外嫉妬深い人間だと気づいてはいたが、こんなに酷いとは思わなかった。今は無関係な義勇にでさえ、イラつきを覚える始末。
(今は俺、全然男らしくないな)
これじゃ行けないと、錆兎は気合を入れるように自分の両頬を掌で軽く叩いた。
「二人とも、持たせたな」
「錆兎、俺はもう行く。もし何か変化があれば、貫三郎を飛ばす」
「わかった。気を付けろ」
その返事にコクリと頷いて、義勇はその場を立ち去った。
後に残された音羽は、ちらりと錆兎の顔を上目遣いに見た。
「じゃあ、私もそろそろ行くわ」
「あぁ。……っ」
一瞬、錆兎の口が何かを言おうと開き掛ける。しかし言葉が出てこない。
(俺は今、何を言おうとしたんだ)
何を聞いていいかわからない。聞きたいことはいっぱいあるのに……
「……錆兎?」
その様子に気づいて、音羽が不思議そうに錆兎の顔を覗き込む。しかし錆兎はすぐさま音羽から視線を逸らした。
「気を付けろよ。……じゃあ、俺も仕事に戻るから」
錆兎はそれだけ言うと、音羽に背中を向けた。
「え、錆…兎?」
明らかに戸惑う音羽の声を背中で聞きながら、錆兎は屋敷に向かって歩きだす。
今、音羽の顔をまっすぐに見たら、またあの時の、音羽に気持ちを告げたあの山小屋の時と同じように、感情のままに全てを問いただしてしまいそうで、音羽を傷つけてしまいそうで怖かった。
ー 擦れ違う心 完