第8章 音柱の任務と蝶屋敷の女主人
ー 東京・浅草
華やかな賑わいを見せる浅草六区興行街から一歩入った、人気のない路地裏。そこに、似たような黒の装束を身に纏った集団がいた。
その集団の中、両手に人型の大きな荷物を抱えた少女が、目の前にいる上官らしき大柄の男に問いかけた。
「音柱ー、こんな人形で、本当に鬼がおびき寄せられるんですか?」
「安心しろ、音羽。俺様の作戦に間違いはねぇ。」
そう言って、音柱と呼ばれた男、宇髄天元が自信有りげにキランと瞳を光らせる。
その姿に、言葉を返された少女・鬼殺隊一般隊士の一条音羽は「本当ですか?」と、疑わしげな瞳を天元に向けた。
「それと、この人形……、」
音羽は腕に抱いた人形の顔をチラッと見た。
「なんか、私に似てませんか?」
「おっ、よく気づいたな?そいつはな、鬼殺後方部隊『隠』の縫製係、前田の自信作っ!『音羽ちゃん人形』だっ!」
「え”?」
突然出てきた前田の名前に、明らかに不快な顔を浮かべる。
縫製係の前田まさおとは、通称『ゲスメガネ』と言われ、女性隊員に卑猥で破廉恥な隊服の縫製しては、それを言葉巧みに着せようとする。そんなわいせつ行為を繰り返す、下衆野郎だ。
「その人形を頼みに行った時、お前と任務に行くって言ったら、アイツ張り切りだしてさ。なんか、信奉者らしいぞ?」
「は?」
「そういえばその人形、いつかお前に着てもらいたい隊服を着せたって、言ってたな。」
そう言われ、音羽は人形を体から離して、その全身を見た。
その瞬間、音羽の表情が固まった。
その人形が着ていたのは、乳房が零れ落ちそうなほどにぱっくりと胸元が開いた上着に、少し動いただけでも下着が見えてしまいそうなほどの短いスカート。
突然脳裏に、嬉しそうに微笑む前田の顔が浮かんできて、音羽は悪寒と共に身体を震わした。
「マジで、キモっ!!」
思わず人形を勢いよく地面に叩きつけると、思いっきり踏みつける。
「ゲスメガネ、滅びろっ!!」
そう叫びながら、何度も人形を足蹴にする音羽を、流石に天元が止めに入った。
「おいおい、まだ使うんだから、大事にしろよっ!!」