第7章 同期達の証言
「さぁな。でも力を付ければ、それはそれで、また余計な軋轢が生まれる。…俺は前に一度だけ、音羽に悪意が向けられた場面に出くわしたことがある。………あれは確か、二年前…、」
義勇はポツリポツリと喋りだした。
それは義勇と音羽、二人を含めた何人かでの合同任務での出来事だった。
任務は問題なく遂行出来ると思っていた。しかし、一緒に任務に参加していた先輩の男隊士が独断で動き出したことで、状況は一変し、仲間全員が窮地に陥る事態になった。
だが、義勇と音羽の機転の利かした働きで、どうにか状況を覆し、死者を出すこともなく、その任務は無事に終えることが出来たのだが…、
「任務が終わった後、音羽が文句を言いにそいつに詰め寄った。しかしそいつは…、」
自分よりも階級が上の、しかも女の後輩隊士に、皆の前で罵倒されたことにイラついたのか、苦し紛れにこう返した。
『ちょっと階級が上だからって、偉そうに…、どうせその階級だって、同期の、伝説の錆兎様にでも、助けて貰ったんじゃねーのか?……その顔と身体で迫れば、コロッとお願い、聞いてくれそうだしなぁ?』
そう言って、下品に笑う隊士に釣られて、周りにいた隊士達もクスクスと笑い出した。
「……その時の音羽の悔しそうな顔、俺は今でも忘れられない。」
「おいっ、どこの誰だよっ!そんなやつ、俺が……、」
「大丈夫だ。そいつはその後、俺と音羽でボコボコにした。それにもう死んだ。」
それを聞いて、そいつにはお悔やみを申し上げるが、錆兎の憤りが消えて失くなるわけではなかった。
言った奴には勿論、激しい怒りを感じるが、それよりも、それに長い間気づくことなく過ごしていた自分に、そしてそれを教えてくれなかった仲間にも…、
「……なんでそんなに大事な事、俺にいわなかったんだ。」