第7章 同期達の証言
「それはこっちの台詞だ!寝ていたと思ったら、いきなり人の手を握って……しかもっ!手の甲に激しく口づけしてきたかと思ったら、今度は抱きついてきて、胸に顔を擦り……、」
その瞬間を思い出したのか、義勇の身体がゾワゾワと震えた。
「マジか?」
その状況を想像した錆兎は顔を青くした。同時にそんな気持ち悪い想いをさせてしまった親友に、素直に頭を下げる。
「……それは、済まなかった。」
そう言って、頭を下げたまま項垂れる錆兎。そのいつにもなく元気のない姿に、義勇は驚いた顔を見せた。
今夜は、義勇と二人の合同任務だった。
任務は郊外に広がる森の中に巣食う鬼の退治だったが、それは問題無く終了する。しかし、道に迷いやすい暗い森の中を彷徨うのは危険だと判断した二人はその場に留まり、野営をして、日の出を待つことにした。
待つ間、二人は交互に仮眠を取った。まずは義勇が、そして錆兎の番……、
そして先程の出来事は、錆兎が寝付いて程なくしての奇行だった。
「一体どうしたんだ?最近のお前、らしくない。」
義勇にそう問われて、錆兎は「そうかもな…。」と小さく呟くと、目を瞑り、大きく息を吐いた。
そう、自分でもわかっていた。最近の自分は心ここにあらずといった感じで、覇気を感じられない。
そして、その原因もわかっている。
「なぁ、義勇。俺、音羽に嫌われたかもしれない。」
「何か、あったのか?」
落胆した顔で遠くを見つめる親友に、義勇は神妙な面持ちで問いかけると、錆兎はぽつりぽつりと語りだした。
「音羽…アイツとは、お互いの気持ちを確認し合って、心から結ばれたって思っていたんだ。それなのに……、なぜかあれきり、避けられている。」
「そう…なのか?」
錆兎は、コクリと頷いた。