第1章 最悪な出会い
「っ!?なんだ、お前っ!!」
突如現れた小さな気配。それに気づいた鬼の手が伸びて向かってくる。錆兎はそれをかわすと、そのまま飛び上がり、刀を大きく振りかぶる。
水の呼吸 弐ノ型・水車
前方に回転しながら、男児の身体を掴んだ手を腕ごと切り落とす。
「ぐああぁっ!!」
腕を斬られた痛みで鬼が金切り声を上げた。
錆兎は斬られた腕ごと地面に投げ出された男児を庇うように鬼の前に立ちはだかると、その男児に言葉を掛けた。
「早く逃げろっ!!」
その言葉に、転がった男児は慌てて起き上がり、一目散に逃げ出した。錆兎はそれを確認すると、鬼に視線を戻した。
すぐに次の手が来ると思っていた。しかしその鬼は、錆兎の顔……、正しくはその上の、頭の方へ視線を向けて、ニヤッと気持ちの悪い笑いを浮かべた。
「今年も来たな?……俺の可愛い狐。」
「……き…つね?」
鬼が放った言葉の意味がわからずに、訝しげに眉を顰める。
すると、さらにニヤリと微笑んだ鬼は、数ある腕の一本を錆兎に向け、その頭に付いている、錆兎達の育手の師範・鱗滝左近次が作ってくれた狐の面を指さした。
「お前が付けてる、その狐の面のことだ。狐小僧お前、鱗滝の弟子だろう?」
「どうしてお前が、鱗滝さんを知っているっ!」
錆兎の問いかけに、鬼は突如人が変わったかのような怒りの形相に顔を歪ませて、錆兎を睨みつけた。
「知ってるさァ!俺を捕まえたのは鱗滝だからなァっ!」
興奮したようにそう叫ぶと、鬼は自身に起こった出来事を半狂乱に語りだした。
江戸時代、まだ鬼殺隊水柱だった頃の鱗滝左近次に生きたまま拘束され、この藤の山に閉じ込められたこと。それから約四十年近く、この山で鱗滝を恨みながら、多くの子供を喰って、生き永らえたことを……
「四十人は喰ったなぁ。この藤の牢獄で、ガキ共を……、」
「よ、四十……、」
その数の多さに驚愕する。しかし、それならばこの醜く肥えた身体も合点が行く。そんなことを考えていると、鬼は次に腕数本を錆兎の目の前に出し、指折り数を数え出した。