第1章 最悪な出会い
「結構、深いな。」
傷口を見て、錆兎は眉間に皺を寄せた。鬼の爪だろうか、深く抉れたような傷口があった。血はもうすでに止まっているようだが、かなり深くまで切りつけられている。
錆兎がそう推測しているその間も、目の前の子供は「離せっ!」と、小さく暴れる。錆兎は暴れるソイツの手首をしっかりと掴んで、引き寄せた。
「いい加減にしろっ!たまたま通りすがりに会った男に、傷の手当をしてもらうだけだ。暴れるなっ!」
錆兎が一喝すると、子供は大人しくなった。錆兎は呆れたように小さくため息をつくと、傷薬の蓋を開けて少量指に取り、その傷口に塗りつけた。
「っ…!!」
子供の顔が、静かに苦痛で歪むのを見て、錆兎は感心した。
「お前、根性あるな。」
「?」
「俺の先生の薬はな。凄い良く効くんだけど、めちゃくちゃ染みるんだよ。」
そう言って、笑う。錆兎でさえ、初めて塗られた時は素直に悲鳴を上げた。義勇なんか、負った傷よりも塗られた傷薬の痛さで泣いたくらいだ。
錆兎は目の前の子供が強がりだけでなく、本当に根性があることに舌を巻いた。
薬を塗り終わると、軽く傷口に布地を当て、包帯で巻く。解けないよう包帯の結び目をキツく縛った。
「ほら、終わったぞ?」
軽く傷口を叩いてやる。
「痛っ!」
不意打ちで食らった痛みに、子供が小さく呻いたのを確認すると、錆兎はしてやったとばかりに、小さく笑った。
治療を終え、錆兎は傷薬の包を閉じると、それをその子供の手に握らせた。
「え…、これ…、」
子供が戸惑ったように言葉を言い淀むと、錆兎は背を向けた。
「この傷薬を塗り続ければ、傷跡も小さく済むからやるよ。あと、俺が勝手にやっただけだから、礼もいらない。じゃあな。」
「あっ、まっ…、」
引き留めようとする子供に、錆兎は振り返ると、
「…お前さ、感じ悪いけど、お前みたいな根性のあるやつ、鬼殺隊には必要だと思うから、……死ぬなよ?」
そう言うと、錆兎はその場から立ち去った。
残された子は、錆兎の姿が消えるまで、驚いた表情で、その背中を見つめていた。