第5章 燃ゆる想ひを※
「ちょ、ちょっと待てよ……、お前…俺に対して、嫌味を言うとか罵倒するとか、そういうことしか、してないよな?……どうして、そうなるんだ?というか、いつ?いつからだ?」
頭が混乱していたのか、錆兎が早口で問いかける。少し沈黙した後、音羽は小さい声で語りだした。
「…選別の時。緊張と疲れで気持ちが昂っていたとはいえ、私、錆兎にひどい態度取ったのに、貴方は凄く優しくて…それで、」
「…そんな…前から……、」
錆兎の頭に衝撃が走る。
(初めて会った時じゃないか。あの流れで、こうなるか?……そんなの微塵にも感じなかったぞ。)
「次に会った時は、ありがとうって、言おうって決めてたのに、貴方…私のこと、男の子だと思ってて、…それが…すごい悲しくて…、思いっきり叩いちゃったから…、そしたらそこからもう、売り言葉に買い言葉で、素直になれなくなって…、」
音羽が反省するようには、両手で顔を覆い、下を向いた。その姿に、錆兎が慌てて言葉を掛ける。
「いや、それについては、俺も悪かったとは思う。……でもそういう事なら、初めてのした時はもう、好きだったって事だろ?なんで、向き合ってさせてくれなかったんだ。」
「だって、錆兎の顔を見てするなんで、恥ずかしいじゃないっ!」
なんだその、可愛い理由は?
じゃ……もしかして、あれを嫌がったのも…?
「じゃあ、口づけを嫌がったのは?」
「…あ、あれは、錆兎の顔がいきなり近づいてきて……、恥ずかしくて…その…、」
やっぱりっ!あれは拒否じゃなくて、恥じらいだったのか!?それなのに、俺は嫌われてる勘違いして、何年も……、
衝撃の事実に、錆兎は頭を抱えた。
でも反対に、やっと音羽の行動にも納得が出来る。誘いも断らず、何も言わずに、ずっと自分に尽くしてくれてたんだと知って、音羽に対して、愛しさが増してくる。
錆兎は決意したように、音羽を真正面に見つめた。
「じゃあ、本当は嫌じゃないんだな?……それならもう、遠慮はしないぞ。いいな?」
「…え?」
錆兎は音羽の両肩に手を置いた。そしてゆっくりと顔を近づける。手からの振動で、音羽が緊張で、身体を強張らせたのがわかった。