第5章 燃ゆる想ひを※
そうしてそのまま黙りこんでしまった音羽を横目に、錆兎は自分の腕の傷に視線を移した。
意識を持っていかれそうな勢いでぶつけたが、傷はそんなにひどくなかった。どっちかというと、打撲のような鈍い痛みの方が強い。
一応、薬を塗っておこう、そう思い錆兎が塗り薬に手を伸ばした。すると音羽がその手を掴んだ。
「私がしてあげるわ。」
そう言うと音羽は、もう片方の手も布地から出し、胸の上で布地が落ちないよう織り込んで固定すると、錆兎の腕の傷を治療し始めた。
優しく腕を掴まれ、指に付けた薬を傷口に塗りこむ。
染みる筈なのに、なんだか心地いい。触られた部分から熱が広がって、体中が火照っていくような感覚に囚われる。
顔まで逆上せてしまいそうで、錆兎は誤魔化すように音羽に喋りかけた。
「それとお前な、なんなんだよあの作戦。指文字で気絶させたフリをしてくれって、その一言だけで…、」
「仕方ないでしょ、どこに奴の目があるか、分からなかったんだから。それに前に一度してるし…、」
選別の時の作戦…、音羽も覚えていてくれたことにこそばゆさを感じる。
「そうだが……、俺が忘れてたらどうするつもりだったんだ?」
「その点は…信用してるわ。もし忘れてても貴方ならきっと、その時にあった最善の動きをしてくれるって…、」
音羽の言葉に、錆兎は思わず目をパチクリとさせた。
「お前が俺に対してそんなこと言うなんて、珍しいな。」
「私達同期はね、嫌って言うほど、貴方の実力を思い知らされてるのよっ!……はい、終わったわよっ!」
同時に、パンッと包帯の上から傷口を叩かれて、錆兎は思わず「痛っ!」と声を上げて、恨めしそうな目で音羽に睨んだ。
「フフ、お返しよ。」
そう言って音羽はクスリと笑うと、身体に巻いていた布を解いて、肩から被り直す。
その反動で足元の布地が捲れ上がり、それまで隠されていた音羽の、引き締まった綺麗な形の脚がスルリと姿を表した。