第5章 燃ゆる想ひを※
「気付いたら、どんなに焦ってても、ヤバい状況でも、余裕があるように気取る自分がいる。」
柱になってからは特にだ。誰よりも率先して先頭に立ち、隊員達が迷わぬように不安にならぬように、けして弱いところは見せずに、柱として恥ずかしくない、皆の見本となるよう、気高く振る舞ってきた。
「…でもな、本当はいつもやせ我慢してんだよ。今だって心の中じゃ、『腕の傷マジで痛ってーなぁ!』って、そう思ってんだよ。」
「ふふ、何よそれ。」
錆兎の手が止まった。ゆっくりと顔を起こし、音羽の顔を見る。
「……何よ?」
「…いや、何でもないっ!」
笑った。…笑ったよな…いま、
なんだこれ、めちゃくちゃ、嬉しいぞ……。
錆兎はニヤけてしまった顔を隠そうと下を向いて、治療に専念した。
「ほらっ、終わったぞ?」
そう言って、錆兎が軽く傷口を叩くと、「いっ…!」と小さく声を上げて、音羽の顔が痛みに歪んだ。
「何するのよ!」
音羽が怒って睨みつけると、錆兎は楽しそうに笑った。
…なんだ、普通に話せるじゃないか。変に気負い過ぎてただけだったんだ。
錆兎は安堵に胸を撫で下ろした。
「でも、なんか懐かしいな。」
「え?」
「選別の時もこうやって、お前の怪我の治療をしてやっただろ?」
「あっ…、」
音羽が何かを言いかけて、口を噤んだ。その態度に、錆兎が驚いた顔を見せる。
「まさか、忘れたのか?」
「わ、忘れたことなんか、一度もないわよっ!……だって私、あの時のこと…貴方に…まだ…、」
最後の方、消え入るように呟いた音羽の顔を錆兎が覗き込む。
「ん?…なんて言った?」
「なっ、なんでもないわよ!」
慌てて、錆兎から顔を背ける音羽。その態度に錆兎は首を傾げた。