第4章 二人きりの任務
ガシッ!
間一髪、身を乗り出して伸ばした、錆兎の手が音羽の手首を捕らえる。音羽の身体が、岩壁でぶらんぶらんと揺れていた。
「……あ、危なかった。今、引き上げてやるから、待ってろ?」
錆兎が掴んだ手に力を込め、一気に引き上げる。しかし、次の瞬間、
ズルっ!
「っ…!」
「うぁっ!」
掴んだ手が滑った。滝から発せられる激しい水飛沫で、すでに腕が濡れていて、引き上げようとすると手が滑る。
「くそっ、駄目だ!音羽、もう一つの手を伸ばせるか?…二つなら、」
音羽が手を伸ばすが、あと少し届かない。そうこうしているうちに、掴んだ手首がまた滑り、錆兎は必死に手を握りしめた。
崖から身を乗り出し、自身も落ちる寸前なのに、必死に音羽を助けようとする錆兎の姿に、音羽が決意したように、言葉を発した。
「もう、いいよっ!離してっ!私なら落ちても、大丈夫っ!自業自得なんだから、心配しないで!」
「馬鹿言うなっ!この高さがわからないのか!?跳ね返る水飛沫で、水面さえ見えないんだぞっ!深さだってわからない、そんなとこにお前を落とせるかっ!!」
「だって、錆兎っ!貴方まで、滝に落ちちゃうっ!!」
音羽の泣き叫ぶように訴えた言葉に、錆兎はハッとして目を見開いた。
「滝に……落ちる?」
その懐かしい響きに、次の瞬間、錆兎がニコッと微笑んだ。
「……音羽、俺…滝に落ちるの、得意だったわ。」
「…へ?」
錆兎は、音羽の手を掴んだ手に、グッと力を込めた。
「いいか、音羽っ!俺が合図したら、思いっきり空気吸って、呼吸を止めろっ!いいな!?」
そう言うと、錆兎は勢いよく、滝に向かって、身を投げ出した!
「え、嘘っ!?」
突然、身体に浮遊感を感じ、驚く音羽の身体を、錆兎が思いっきり力強く引き寄せ、庇うようにぎゅっと抱きしめた。その耳元で囁く。
「いいか、水の中に入ったら、水を飲まないよう、強く口を閉じろ。……いくぞ、今だっ!」
その号令に従い、音羽は大きく息を吸い、口を思いっきり強く閉じて、息を止めた。