第1章 最悪な出会い
「顔を合わせれば、喧嘩ばっかり。もう数少ない同期なんだ。もう少し仲良くしたらどうだ?」
義勇の言葉に音羽はプイッとそっぽを向く。その態度を見かねた義勇が、音羽に声をかけた。
「音羽、お前だけだ。錆兎にそんな態度を取るのは。」
その言葉に、音羽はフンッと鼻を鳴らした。
「そうでしょうね。皆から頼られ慕われる、水柱の錆兎様は、それは素晴らしい人格者であらせられるもの。私にはただの傲慢なお節介男にしか、見えないけど!」
「お前なっ!」
音羽の嫌味に、今度は錆兎の眉間に皺が寄る。言い返そうとしたその時だった。西の空の方から、鴉の鳴き声が聞こえた。
「寛三郎!」
その鴉は、義勇の鎹鴉の寛三郎だった。初老の寛三郎は、少し覚束ない足取りで義勇の肩に停まると、次の任務内容を伝えた。
それを聞き終えると、義勇は二人に向き直り、こう告げた。
「俺は次の任務が入った。先に行くが、お前達はもう、喧嘩をするな。」
釘を指すように言うと、音羽は「はーい。」とぶっきら棒に返事し、義勇に視線を向けた。
「義勇、気を付けてね?」
そう言って、優しく微笑む。
「音羽、ありがとう。行ってくる。」
その笑顔に微笑み返し、義勇は寛三郎と共に次の任務へと向かっていった。
そのやりとりを一部始終見ていた錆兎が、音羽をチラリと横目で見る。
「何よ?」
「いや…別に。」
錆兎は音羽から、視線をそらした。
(…そんな笑顔、俺に向けたことなんか、一度もないな。)
自分と対峙した時とはまったく違う、義勇に向けられた柔らかな笑みを見て、何処か釈然としないものを感じる。
いつもそうだ。この一条音羽と言う女は、自分と向き合うと不快に顔を歪める。それは錆兎が音羽と出会った頃から変わらない。
(……思い返せばコイツとは、初めての出会いからして、本当に最悪だったな。)
その出来事が思い出されたのか、錆兎の顔が不快げに歪む。
音羽との初めての出会い、それは今から数年前。錆兎が鬼殺隊になる為に受けた、最終選別でのことだった。
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