第1章 最悪な出会い
泣き分かれになった頸は、そのまま弧を描いて吹き飛び、まるで狙ったかのように音羽の目の前に落ちて転がった。
その頸を見て、音羽は唇をわなわなと震わせると、錆兎に詰め寄った。
「錆兎、アンタねっ!」
「鬼は一匹だけじゃないんだ。気を抜くなっ!」
悪びれることなく錆兎はそう言い捨てると、次の鬼に向かい走り出してしまった。
音羽は悔しさを滲ませた薄茶色の瞳で錆兎の後ろ姿を睨みつけると、きゅっと強く、唇を噛み締めた。
今回、鬼殺隊である音羽達に与えられた任務は、この山に巣食う鬼の退治。
鬼殺隊とはその名の通り、鬼を殺す、鬼刈りを生業としている者達の組織である。
この山には十二鬼月、鬼の中でも上位に位置する凶悪な鬼がいるとの報告があり、鬼殺隊の最高位である柱、その中で水柱の称号を持つ錆兎と、それに近い階級・甲の位を持った義勇と音羽が選ばれた。
鬼はその他にも何匹かいて、音羽達は手分けして鬼どもの殲滅に当たっていた。
山にいた鬼どもを一掃し、集合場所に戻った音羽は、錆兎の姿を確認するなり、怒りの形相で詰め寄った。
「錆兎っ!アンタ、いつもいつも……何回言ったらわかるのよっ!アイツは私の獲物だったのよっ!」
鬼殺隊において、鬼の討伐数はその者の評価に繋がる。獲物を横取りされた形になった音羽が怒るのは無理はない。
「お前がぼーっとしてるから、助けてやったんだ。文句を言われる筋合いはない。」
錆兎がそっけなく言い返すと、音羽はさらに目を釣り上げて、きつく錆兎を睨みつけた。
いつもそうだ。この錆兎と言う男は自分の邪魔ばかりする。それは音羽が錆兎と出会った頃から変わらない。これで悪気はなく、ただの強い正義感の元に行動しているのだから、余計にたちが悪い。
「それが余計なお世話だって言うのよ、自分でやれたわ!」
「そうか?俺には一匹程度やっつけただけで満足して、隙だらけに見えたがな。」
「なんですってっ!」
目の前で始まったいつもの、隊に入った頃から繰り返し見る光景に、二人の同期である義勇はため息を付きながら近づいた。
「お前達、いい加減にしろっ!」
義勇にそう一喝され、二人が黙り込む。