第4章 二人きりの任務
「結構、粘ったな。ただ柱に付いてきたオマケだと思ってたら、やるじゃないか?」
そう言いながら、鬼が近づいてくる。音羽の目の前まで来ると、しゃがみこみ、音羽を見下ろした。
「中々良質な、いい筋肉を持ってるな?これはいい栄養になりそうだ。」
「私を食うつもり?私を食っても、アンタなんか、柱に……錆兎には、絶対敵わないわよ?」
「そうだな。お前を食っても、柱は骨が折れそうだ。………でも、まだ食わない。お前には利用価値がある。」
そう言うと、鬼は人指し指を音羽の目の前に立てた。その指先から、黒く小さな塊が出現した。
「…お前、俺の血鬼術を植物を操る力だと思ってるだろう?…でもな…俺が操れるのは、植物だけじゃない。」
鬼がその小さな黒い塊を、音羽の目の前で揺らした。
「これ、何かわかるか?……この指先にあるのは、俺の血で作った種だ。
これを植え付けられると、その物体の中に俺の血で出来た根が生え、その体を乗っ取ることが出来る。」
「………待って、何をする気?」
鬼が言わんとすることがわかり、音羽の身体に緊張が走る。
「これを今から、お前の身体に植え付ける。お前の中で芽吹いた根は、お前の血管を通って、広がり、身体中に行き渡る。」
みるみると血の気の引いていく音羽の顔を、鬼は嬉しそうに見つめた。
「俺じゃ、柱に勝てなくても、仲間のお前なら、油断を誘い…勝てるかもしれないな。……人質にしてもいい。」
鬼のその言葉に、音羽の顔にはっきりと動揺が走った。
その姿に鬼はニヤッと微笑むと、ゆっくりと指先を音羽のおでこに近づけた。
「やめてっ…!」
音羽が抵抗するように、身体を暴れされるが、動くことすら出来ない。
(…錆兎の言うことも聞かずに逃げ出して、その結果がコレなんて…、会わす顔がない!)
ゆっくりと音羽の額に、鬼の種が吸収されていく。
次の瞬間…、
ドクンっ!
体中の血が沸騰するように熱くなった。音羽は身体を震わせて、目を閉じた。
………錆兎、……ごめんっ!