第4章 二人きりの任務
その頃錆兎は、一匹の鬼と対峙していた。
壱ノ型・水面斬り
目の前に現れた鬼の頸を、軽々と放った錆兎の技が、一瞬で捕らえる。
錆兎は振り返ると、転がってきた鬼の頸を、苦々しい顔で踏みつけた。
「こんな雑魚鬼に、うちの隊員がそうそう殺られる訳がない。どこかに、もっと大きな獲物がいる。」
そう言って、辺りを見回した。
目的の鬼は、そして音羽は何処にいる。
錆兎の胸に焦燥感が募る。
そんなときだった。空の方で鴉の鳴く声が聞こえた。
「誉(ほまれ)っ!」
錆兎の鎹鴉の誉が、ゆっくりと錆兎の頭上を、旋回するように飛び回る。
「十二鬼月ヲ確認っ!!下弦ノ壱ー!!下弦ノ壱ー!!」
その報告に、錆兎が舌打ちした。
下弦の下の方だったら、音羽一人でもどうにかなったかもしれないが、しかし壱となると荷が重い。
錆兎の身体に、言いしれぬ不安が横切る。
「誉、音羽の居場所はわかるか?」
鴉達の伝達情報は早い、どこかで音羽の姿を見ている鴉がいるかもしれない。そう思い、錆兎が伺うと、誉はすぐに答えてくれた。
「ココカラ、西ノ方角ー!!」
錆兎は頷くと、刀に付いた血を振り払い、鞘に収め、西の方角に向かって走り出した。
暫く進むと、道に血の跡を見つけ、錆兎は立ち止まった。触ってみると、まだ新しい。
「…音羽のか?」
錆兎の心臓が、痛いほどの鼓動を打つ。その先を見ると、草むらにも血が付いてる場所がある。
「こっちか!」
錆兎は微かな血の跡を頼りに、木々の中をまた走り出した。
(音羽、頼むから無事でいてくれっ!!)