第4章 二人きりの任務
襲いかかる木々を払いながら、一直線に走り、木々を抜けると、視界の開ける場所に出た。
「っ!?」
しかし周りを見渡して、音羽は驚いて目を見開いた。
そこは川ではなく、すぐ横に大きな滝の流れる、切り立った崖の上だった。
下を見ると、水飛沫で水面は見えないが、かなりの高さがある。
(不味い…、行き止まりだ。)
慌てて来た道を振り返る。その振り返った先に、一匹の鬼がいた。
暗闇にキラリと光るその目に、刻まれた数字。それを見て、音羽の心臓がドクンと波打つ。
下弦の壱
「……そう。アンタが、ここに巣食ってる鬼ね?」
音羽の手が刀の柄へと伸び、いつでも飛び出せるよう、身構える。
「鬼刈りの女。せっかく逃げたのに、行き止まりで残念だったな。」
「そうね。でも私は、アンタが出てきてくれて、好都合だけど。」
音羽が刀を構えた。その姿に鬼がニヤッと微笑んだ。
「俺はな、勝ち目のない戦いには出てこないんだよ。お前はここで終わりだ。」
鬼がそう言って手を上げた瞬間、鬼の背後にあった木々達が、一斉にざわついた。
そして、無数の鋭い枝が音羽に向かってくる。音羽はそれを、空に高く飛んで、避けると、空中で刀を構えた。
雷の呼吸・参ノ型・聚蚊成雷
そのまま空中を、高速で回転しながら、角度を変えて襲いくる木々を薙ぎ払う。
背後は崖の為、攻撃が前方だけに偏ったのは助かった。しかし手数が多すぎる。斬っても斬っても、次から次へと襲いかかり、鬼に近づくことすら出来ない。
(だめっ、数が多すぎる。鬼が目の前にいるのにっ!)
なんとか、木々の間を抜けて、霹靂一閃の高速技で抜ききれないか?その隙を見つけようと、神経を尖らせる。
その時だった。
シュルっ!
突如、崖から伸びてきた蔓が、音羽の足を絡め取った。
「っ…しまった!」
目の前の木々に、気を集中しすぎて、崖の方から、伸びる蔦に気づけなかった。
そのまま勢いよく引かれ、音羽は地面に倒れ込んだ。その身体を木の枝が次々と絡め取り、音羽はとうとう見動きが取れなくなった。