第4章 二人きりの任務
シュッ!
空気を裂く物音。
音羽の耳が、その僅かな音を感じ取り、無意識に身体を捻らせる。その瞬間、横を何かが通り過ぎていくのを感じた。
慌てて振り返ると、元いた場所の地面に、木の枝のような物が突き刺さっていた。
(枝?…敵!?)
瞬時に刀を手に掛け、態勢を整える。するとどこからともなく、声が聞こえてきた。
「へぇ…、雑魚だと思ってたのに、意外に反応がいいな。」
「誰!?」
周囲を確認するが、姿が見えない。音羽は気配を逃さないよう、神経を尖らせ、集中した。
すると、次の瞬間。
ざわざわ
周囲の木々達が、嵐に煽られたかのように、大きく揺れだした。それはまるで生き物のように不気味に蠢いていて、音羽は警戒するように、視線を巡らせる。
(血鬼術!?)
シュルっ!
突然、鞭が撓るような音が響いたかと思うと、音羽の周りの木々から、鋭く先端を尖らせた無数の枝が襲いかかってきた。
雷の呼吸・弐ノ型・稲魂
瞬時に抜いた刀が弧を描き、木々を薙ぎ払う。しかし次の強襲が、間髪入れず音羽に襲いかかってきた。
壱ノ型・霹靂一閃
激しく稲光を放ち、音羽の剣が襲いくる枝を斬り払う。そのまま音羽は技を乱れ撃つように斬りつけた。
(埒が明かないっ!本体はどこ?……この血鬼術の正体は何?)
襲いかかる木々がすでに血鬼術で作られた物なのか、それとも木や植物を操っているのか。
もし後者なら、森の中は分が悪過ぎる。せめて、もうちょっと開けた、広い場所で間合いを取りたい。
そんなことを考えていると、捌ききれなかった敵の攻撃が、音羽の左肩を掠めた。
「いっ…!」
音羽の顔が痛みに歪む。隊服を裂き、肉が斬りつけられた感触の後に、ジワッと暖かい物が、腕を流れて滴っていくのがわかった。
しかし、そんなことを今は気にしてはいられない。
音羽は目の前の木々に斬りかかり、道を開くと、暗い木々の中を走り出した。
暫く行くと、水の音が聞こえてきた。
(川があるっ!)
川なら少しは開けている。音羽はその音のする方に、走り出した。