第4章 二人きりの任務
「はぁ…はぁ…、」
音羽はある程度走り切ると立ち止まり、後ろを振り返った。錆兎が追ってきていないことがわかると、ホッと一息つく。
辺りはもう、真っ暗になっていた。
「はぁ…。アイツ、いつまでも私のこと下に見てっ!」
イラつきで、小道の石を蹴り上げる。
だが実際、下なのは間違いない。錆兎の実力はよくわかってる。長い付き合いだ、自分なんかじゃ到底勝てないことも。
でもいつまでも、錆兎のオマケ扱いはもう嫌だった。只でさえ、錆兎の同期は鬼殺隊の中でも肩身が狭い。
あの選別を自分の力で生き抜いたわけじゃないからだ。
その中でも義勇は元から実力があったから、とやかく言う奴もいなくなったが、音羽と村田辺りにはいつまでも錆兎のオマケという先入観や偏見がついて回る。
どんなに修行して、どんなに鬼を斬って、甲の階級に就いても、錆兎のそして義勇のおこぼれに預かっただけだと揶揄され、実力を見てもらえない。
能天気な性格の村田は気にすることないと言うが、音羽にはそんな状態が歯痒くて仕方がなかった。
だから今日も錆兎の発言にイライラして、逃げ出してしまった。
だけど本当はわかっている。錆兎の行動は全て、他人の為。自分たちの為だと。
さっきだって、決して下に見てるわけじゃない。心配してくれただけだと。
でも、錆兎との出合いが、今のこんな状態が、どうしても錆兎に対して素直になれない原因の一因でもあった。
「はぁ…、」
音羽は山を見渡すと、大きくため息を付いた。
その時だった。
ガサッ!
突然、後ろから物音が聞こえた。音羽は慌てて振り向いた。だが誰もいない。暗闇の中目を凝らすと、野生の小動物がじっとこちらを見ていた。
その視線は、山に足を踏み入れたよそ者を威嚇するわけでもなく、じっと様子を伺っているように見える。
まるで監視されているような、そんな気がして、音羽は背中に寒いものを感じた。
その時の音羽は、気づかなかった。
その小動物に気を取られ、背後から敵の手が、忍び寄ってることに。