第4章 二人きりの任務
音羽を諭すように、錆兎が声を荒らげて説得する。しかし、音羽は上目遣いに錆兎を睨みつけると、小さく呟いた。
「……いつまでも、オマケみたいな扱いしないで。」
「は?俺はお前を心配して…、」
「…それがお節介だって言うのよ。私だって、一人でも出来るっ!もう、私の邪魔しないでよっ!」
そう言って、音羽は目の前の山に向かい、走り出してしまった。
その後ろ姿を追おうと錆兎が動きかけたがやめた。後を追っても、音羽は逃げるだけだ。
錆兎は苦々しい顔で、周りの木々を見渡した。
「くそっ!…こうなりゃ、俺が先に見つけて、倒すしかないっ!」
錆兎は暗くなっていく山に向かい、走り出した。
…………
………………
山の奥、切り立った崖に出来た洞窟。
その洞窟の中に、二匹の鬼がいた。一匹は奥の一つ高い岩場に座り込み、もう一匹は恭しく、傅くようにその鬼にひれ伏していた。
「そうか、また鬼刈りどもが舞い込んできたか?」
そう言って、岩場の鬼は静かに顔を上げた。褐色の肌に黒髪、するどい黒い眼光を持ったその鬼は、部下のような鬼に視線を向けた。
「はい、樹忌(いつき)様。鬼刈りが二人です。」
その部下の鬼の言葉に、黒髪の鬼は、ゆっくりと目を閉じた。
暫くすると、遠くにいるはずの鬼刈り達の姿が見えているかような口振りで、喋りだした。
「……なるほどな、こいつらか。男は…柱だな。もう一人は…女か。こいつは、柱ではなさそうだ。」
「どうなさいますか?」
そう問いかけられ、黒髪の鬼はニヤッと笑った。
「お前は、男の方に行け。」
「え?しかし、向こうは柱…、」
言いかけた下僕の鬼は、目の前の鬼の眼光に射抜かれ、恐怖のあまり、言葉を止めた。
柱も怖いが、逆らえばどんな仕打ちが待ってるかわからない。
「か、畏まりました。」
そう言って、下っ端の鬼は一礼すると、慌てて洞窟から出ていった。
あとに残された黒髪の鬼は、暗い洞窟内を見つめた。
(いくら俺でも、柱は折れる。だが…この女を、使えばいい。)
そして、その鬼はニヤッと笑った。
その瞳には、数字が刻まれていた。