第1章 最悪な出会い
見渡す限りに広がる、深い夜の闇
風に揺れる木々の隙間から、時折臨む月明かり。その微かな光だけがこの鬱々しい山の輪郭を浮かび上がらせていた。
その暗闇の中、一条音羽は耳を澄ませて、静かにその時を待っていた。
ガサッ!
木々の擦れる音。
「音羽、そっちに行ったぞっ!」
それと同時に、共に任務に来ていた隊の同期・冨岡義勇が合図を送る。
「了解、任せてっ!」
この時を待ちわびていた音羽は、スッと腰の刀に手を掛けた。
そのまま片足を前に大きく一歩踏み出し、身体を前屈みに倒すと、大地を踏み締めた足裏に力を込める。
次の瞬間、木々の間から人影が現れた。
しかしそれは人の形をして人ならざる、この世で最も醜い生き物【鬼】。
音羽は形の整った桃色の唇を薄く開くと、シィィーっと静かに呼吸を整えた。
雷の呼吸 壱ノ型……霹靂一閃っ!
ドンッ!!
力強く踏み切った足裏がド派手な音を鳴らし、音羽の身体は雷のごとく一直線に鬼へと飛び出した。
ほぼ同時に抜いた刃が弧を描き、鬼の頸を薙ぎ払う。
鬼の数メートル先に着地した音羽が、チンッと音を立てて刀を鞘に戻すと、すぐ背後に斬り離された鬼の頸がゴトッと音を立てて落下し、転がった。
(よしっ!)
肩より少し長めの栗色の髪を、軽く後ろに流すように振り返ると、音羽は落ちた頸を見つめた。薄暗い月明かりの下でもわかるほどに整った美しい顔立ち、その顔から満足そうな笑みが溢れる。が、その直後、
「っ!?」
背後から現れた殺気に、音羽の身体がピクリと震えた。即座に振り返り刀に手を掛けると、態勢を整える。
しかし、そんな音羽の目前を、突如白い人影が覆った。
「さ、錆兎っ!?」
その影の正体に気づき、音羽が声を上げると、錆兎と呼ばれた人物は白い羽織と長い鮮やかな宍色の髪を靡かせて、チラリと音羽に視線を送った。
「音羽、戦闘中にぼーっとするなっ!」
錆兎はそう言うと、鬼に向かい技を放つ。
水の呼吸肆ノ型・打ち潮
荒々しく水流を巻き上げ、錆兎の力強く繰り出された刀が鬼の頸を断ち切る。