第3章 さしも知らじな
(なんじゃあー、その羨まし過ぎる展開はぁぁぁー!!!)
錆兎は涙が零れそうな気分になり、思わず片手で覆うと、悲しそうに俯いた。
そんな妄想を勝手にして、錆兎が打ちのめされているとは気づかずに、義勇は嬉しそうにさらに言葉を続けた。
「たまにアイツの頼みで甘味処に一緒に行くんだが、音羽は甘い物には目がなくてな。いつも幸せそうな顔で食べてて、錆兎、お前にも一度見せてやりたい。」
(そんなん、俺だって、見てーよっ!!)
錆兎は心の中で、そう叫ぶと、はぁ…と小さく溜息をついた。
自分と義勇とで、そんなに態度が違うのか?
かなり心が落ち込んできて、錆兎はがっくしと肩を落として俯いた。
「どうしたんだ、錆兎?」
段々と視線を下に落としていく親友に、義勇が心配して声をかける。錆兎は今度は深くため息をつくと、義勇と顔をちらりと見た。
「いや…義勇、充分だ。もう喋らなくていい。」
そう言った錆兎に、義勇は怪訝な顔で頷くと、「わかった。」と呟いた。
しかし、こうなってくると益々疑わしい。錆兎は義勇に気づかれないようにその顔をまじまじと見る。
水筒に口をつけ、ゴクゴクと中身の水を喉の奥に押し込む親友の横顔を見て、思った。
(……普通にいい男だよな。こんな奴に言い寄られたら、俺だって落ちる。……よしっ!)
錆兎はいい機会だと思って、勇気を出して、義勇に問いかけた。
「なぁ、義勇。率直に聞く、お前…音羽と……、」
そこまで言って、錆兎の言葉が止まった。
待てよ、聞いてどうするんだ?「音羽とやってるのか?」なんて、やってもやってなくても気まずい。
(……もしやってたらどうする?俺達、兄弟みたいに育って来たけど、こんなとこまで、兄弟になっちまったな?とか、言うのか?)
やってなければ、経緯を聞かれるだけだ。
……有り得ない、聞けない。
錆兎が黙ってると、義勇は不思議そうな顔を浮かべて首を傾げる。
「錆兎、どうした?」
「あぁ…いや。お前って、音羽と仲いいよな?」
とりあえず、当たり障りのない質問に変えてみる。
「そうか?…でも、そうだな。アイツとは、育ってきた境遇が似てるんだ。」
そう言って、義勇が穏やかに微笑んだ。