第3章 さしも知らじな
「アイツも早くに両親を失って、唯一の肉親の姉が、親代わりに育ててくれたらしい。…でもその姉も音羽を庇って鬼に…、」
そこまで言うと、義勇が悲しそうに顔を伏せた。多分、自分の姉とも重ねたのだろう。
しかしすぐに顔を上げると、錆兎に笑顔を向けた。
「でも俺と違うのは、俺はお前に殴られるまで、姉さんが死んだのは自分のせいだと責めていたが、アイツは姉が救ってくれた命を無駄にはしない、一人でも強く生きていくと誓って、鬼殺隊に入ったんだ。」
それを聞いて、錆兎は選別の時の音羽の姿を思い出した。
「……そうか。だからアイツ、選別の時、あんなに気を張って…、」
あの時のアイツは、誰にも頼らずに生きて行くことに必死だったんだ。
そんなアイツの尊厳を、俺が踏みにじった。
それに初めて聞く話しだった。そう言えば、音羽の事を何も知らない。
鬼殺隊に入った経緯だって、可愛い小物や甘いものが好きだってことも。
顔を合わせれば、喧嘩するだけだし、あの行為の時だって、言葉を交わさない。
それなのに、思い通りにならないから、苛ついたり落ち込んだり、そんな権利、俺にはなかったんだ。
俺はもっと、深い部分でアイツと関わりを持たなくちゃいけなかった。
「そうだよな。」
錆兎は憑物が取れたかのような晴れやかな顔で義勇に笑いかけた。
「義勇、お前のおかげでやっと答えが出た。ありがとうな。」
そう言って、すごく満足そうに笑う親友に、義勇ははっきり言って意味が解らなかったが、取り敢えず(ま、いっか。)と、微笑み返した。
(そうだ、俺が本当にしなくちゃいけないこと…、)
まずは、今の関係を終わりにする。そして、もっと音羽の事を心から理解して寄り添う。
せめて…笑顔を向けて貰えるようになったら、音羽に言うんだ。
俺の本当の、想いを………
ー さしも知らじな 完