第3章 さしも知らじな
稽古を終え、錆兎は近くの岩場の上に置いてあった自分の持ち物から手ぬぐいを取り出し、流れ落ちる汗を拭うと、隣で同じく汗を拭う義勇をちらりと横目で見た。
「義勇、さっきの話しだが、継子の件真剣に考えろ。」
「錆兎…」
「何も俺を師範と仰げと言ってるんじゃない。知って通り、俺にはまだ継子がいない。該当するような隊士もまだ見つけられてない。……もし、俺に万が一何かがあった場合は、お前しかいないんだ。」
錆兎の青紫色の瞳が、義勇の紺碧の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「俺の代で、長く続く水柱の歴史を途絶えさせる訳には行かない。わかるだろ?」
その真剣な眼差しに、とうとう義勇は観念したように頷いた。
「わかった。錆兎、お前に万が一など、想像もしたくはないが……、お前の願い、聞き入れよう。」
義勇の言葉を聞いて、漸く錆兎の表情がフッと優しく緩む。
「たくっ、お前は俺に遠慮ばかりして、本気になるのが遅いんだよ!」
「別に今までも、手を抜いたことは一度もない。」
義勇が心外とばかりに拗ねたように言い返すと、錆兎は「あはは」と軽く笑い返し、目の前の岩場に腰を下ろした。
すると傍らにあった義勇の鞄が手に触れ、同時に何かがコツンと指先に当たった。
錆兎が無意識に視線をやると、その持ち手の部分に、若い女の子達が喜びそうな、青色のガラス玉の付いた可愛い装飾品が付けられているのに気付いた。
「なんだこれ?お前…えらく可愛い物、付けてるな?」
錆兎がその小さな小物を指差した。義勇がその指の先に視線を向ける。
「あぁ…これか?音羽に貰った。」
「音羽に?」
「この間、任務明けで二人で街に買い物に行ったんだ。可愛い店構えの雑貨屋があって、音羽が入りたいと言うから付き合ったら、これを買ってくれた。」
義勇はそのガラス玉の小物を手に取ると、その時の記憶が蘇ったのか、穏やかに微笑んだ。
「俺の目の色だからと選んでくれて、無理矢理に着けられた。次に会った時に外してたら、キレるとまで脅されてそのままだ。……そう言えば、アイツも買ってたな。自分の色、薄い茶色のガラス玉を。」
「ふーん。(ってことは、なにか?…それはおそろいってことか?)」