第3章 さしも知らじな
その姿を思い浮かべるだけで、錆兎の心臓は早鐘のように波打ち、身体が熱く熱を持ったように疼いてくる……
(ってぇぇ〜〜!!俺はまた、何を考えてるんだっ!!)
錆兎は思わず、頭を抱え込んだ。
(なんで、こんな時に…あんな姿を思い出すんだっ!)
「さ〜びと!」
(確かに相性は…いいとは思うが……、)
「おーい、錆兎ー?」
(そうだ、相性がいいだけだっ!だから俺はっ……、)
「おいっ!!錆兎っ!!」
「うあっ!!」
突然耳元で叫ばれ、同時にズシンと肩にのし掛かられた重みを感じた錆兎は軽く声を上げながら、驚いた顔で振り向いた。
「吃驚したっ、………なんだ、宇髄か。」
「あのな。人の顔見て、そんな残念そうな顔すんな?何度も読んだのに無視しやがって。」
そう言って、眉間にシワを寄せるこの男は、同僚の音柱・宇髄天元。デカい図体で、錆兎を見下ろすその顔を見て、「そうだったか、済まない。」と、そっけなく返す。
「……ん?なんか元気ねーな。そういや、会議の時も静かだったか?」
天元が会議の様子を思い出して、首を傾げる。いつも気合い充分な錆兎にしては珍しい現象だった。
「いや、別にそんなことはない。今日は暴れだす奴がいなかったから、大人しくしてただけだ。」
本当にそうなのだが、確かに心の奥に何かの蟠りがあるのは間違いなかった。だが、気取られないように平静を装って答える。
錆兎の態度で、触れてほしくない話題だと気付いたのか、天元は話題を変えることにした。
「それよりさ、お前まだ時間があるなら、飲みに行かねーか?この間話してた女の話し、どーだったか聞かせろよ?」
そう言われて何のことだったか、一瞬考えたが……、そう言えば、この前の飲み席で、つい口を滑らせて、正体は言わずに音羽の事を相談してしまった事を思い出した。
善がらない、反応の薄い女を、満足させて、夢中にさせる方法を。
「俺の教えてやったやつ、試したんだろ?効果あったか?」
「あぁ、あれか。そういや試してないな。余計なことすると、キレられるからな。」