第3章 さしも知らじな
錆兎が気のない返しをすると、話題を変えたつもりで変えられてないことに気づかないまま、天元はフンッと小さく鼻を鳴らした。
「なんだそりゃ。話聞いてた時から思ってたが、本当につまんねー女だな。」
「…つまらない?」
錆兎の身体がピクッと震えた。
「だって、そうだろ?自分が一生懸命、尽くしてやってんのに、悦ぶどころか、キレられたんじゃ、やり甲斐がねーだろうよ。」
「やり甲斐が…ない…、」
確かに、やり甲斐のない女と言われれば、その通りだ。触らせない、善がるどころが反応は薄い。自分から求めてくるわけでもなく、こちらを称賛すらしない。事を終えたら、さっさと帰る。
そこまで考えたら、錆兎の頭に疑問が湧いてきた。
なんで俺は、そんな女と関係を続けてるんだ?
自分の隣で、考え込むように項垂れる錆兎を見て、宇髄はククッと小さく笑った。
「しかしよ、伝説の水柱・錆兎様も型無しだな。女一人落とせないなんてよ。他にもいんだろ?お前が声掛けりゃ、ほいほい付いてくる女がよ。」
確かに、錆兎にいいよる女など、星の数ほどいる。今までだって、何度も声をかけられた。若い女子隊員や先輩のお姉様隊員。鬼から助けた少女や人妻まで。
錆兎がその気にさえなれば、尻尾振って付いてくるだろう。
だが、そんな女達には不思議と興味が湧かない。
自分にはけして靡かない女。善がらない、つまらない女。
他のやつからみたら、到底理解出来ないかもしれない。
でも…、ただアイツの、小さく見せる反応に一喜一憂して。今、どんな顔してるのか?この肌を真正面から抱きしめたら、気持ちいいんだろな…とか、その可愛くて柔らかそうな唇に吸い付いたら、どんな気持ちになんだろ?とか、想像して…毎回、期待してる自分がいる。
その感情の行き着く先は……、本当はわかってる。でも、どうしても認めたくなかった。自尊心が傷つくのは、目に見えてる。
「あぁ〜、もうっ!!」
錆兎は不機嫌そうに頭を掻きむしると、宇髄を見上げた。
「今日は気分が乗らない、じゃあな。」
そう言うと錆兎は、肩に乗った宇髄の手を退かし、トボトボと道を歩き出した。
その後ろ姿を見て、宇髄はニヤニヤ笑いながら、ポツリと呟いた。
「ありゃ、相当参ってるな。その女に。」