第14章 擦れ違う心
朝食後、錆兎は自室に戻ると、お館様への文を認める為に文机の前に腰を下ろした。
紙を用意し、筆を取ろうと視線を机の隅に向ける。すると隅に置いてあった紙袋が目に入った。
(そういえばこれ…音羽にまだ渡してなかったな……)
それは昨日、町で購入した音羽と揃いの指輪だった。
本当は初めてのデェトの締めくくりに、どこか二人きりになれる雰囲気のある場所を見つけて渡すつもりだった。
(でも…今は……)
クシャッ!
錆兎の手が、机に置いた紙を力強く握りつぶす。
(駄目だ…とてもじゃないが、そんな気分になれない。……今朝の音羽の顔。どう見ても泣いた跡だったよな?)
今朝方会った時に見た音羽の顔は、目の周りは微か赤く色づいていて、間違いなく泣いた形跡があった。
(確かに、昨日の夜の音羽の様子は可笑しかったが……)
昔の馴染みに、思わぬ形で会ったことに驚いたのもあるのだろうが、その他にも明らかに自分に対して何かを隠してる様子もあった。
(何が少し疲れただけだ。どうして俺に言ってくれないんだ…原因はやはり…アイツに関係があるからか?)
錆兎の脳裏に、昨日初めて会った青年の姿が思い起こされる。
蘇芳清昌。齢二十二にして蘇芳財閥の当主。音羽の幼馴染みで、そして現在、鬼殺隊から鬼の関与が疑われる人物。
(……初恋の相手…か)
『その可能性も捨てきれない』…と言った義勇の言葉が頭に過り、錆兎の顔に苛立ちが滲む。
別にそんなに気になるんなら、本人に直接聞けば良かったのだが、こんな女々しいことを音羽に問い質すのは、男としていかがなものか?
そんな自尊心が邪魔をして、つい聞くことも出来なかった。