第14章 擦れ違う心
「来週の土曜日か……」
封筒を開け、中身の文章を確認した錆兎が呟く。招待状の日付は来週の土曜日。今日は月曜日だから、とりあえず二週間近くはある。
「清昌くんは恋び……錆兎や友人でも連れて気軽に来て欲しいって…言ってたわ」
一瞬、錆兎を恋人と言いそうになって、慌てて呼び方を変える。人から言われるのも恥ずかしいが、自分で言うのもかなり恥ずかしい。
恥ずかしげに視線を下げる音羽の横で、当の錆兎はまったく違うことを考えていた。
(こうなるとこの任務、音羽の介入なしじゃ無理だな)
実はこの任務、音羽は外そうかと考えていた。知り合いである上に好意を抱いた人間が絡んでるなど、任務にどんな支障を来すかわからない。
(それに……)
錆兎の視線が音羽に向く。
心の奥底にある本音を言えば、これ以上音羽を清昌に近づけたくない。
こんな子供じみた感情を、柱である自分が抱くなどあってはならないことだ。そう頭でわかっていても、こんな気持ちになるのは初めてで感情が上手く制御出来ない。
しかも今朝の音羽の、あんな顔を見た後なら尚更……
(何を考えてるんだ。私情は捨てろ。今は任務が最優先だろ)
錆兎は自分を落ち着かせるように、心の中で小さく息を吐き出した。
「とりあえず、何をするにもまずは許可を得るのが先だな。俺はお館様にこの件に介入する許可を頂いてみる。義勇は引き続き屋敷の偵察に当たってくれ」
「承知した」
義勇が頷くと、錆兎は音羽に視線を向けた。
「音羽、今日は別の任務が入ってるって言ってたな?」
「うん」
「とりあえず、そちらの任務が優先だ。帰ってきたら詳細を伝える」
「わかったわ」
音羽が返事すると同時に、襖を挟んだ廊下側から、妙の朝餉の準備が整った旨を伝える声が聞こえてきた。そのまま三人は妙の作ってくれた朝餉を堪能し、それぞれの準備に取り掛かった。