第14章 擦れ違う心
「それで義勇、塀の中には入ったのか?」
居間の座卓に据えられた座布団に腰を落ち着けると、錆兎が向かいに座った義勇に問いかける。
「あぁ、入った。中は思ったよりも警備が厳重だった。それでも一番手薄な裏口から、屋敷内に忍び込もうと思ったんだが………、勝手口の前に…犬がいた」
表情も変えずに、淡々と任務の状況を説明する義勇。しかし最後の言葉を発すると、力無く視線を下げた。
義勇のそんな様子に、錆兎の顔が微かに引き攣る。
そんな二人の様子に気付くことなく、錆兎の横に座っていた音羽が、先を促すように義勇に問いかけた。
「犬?それで?」
「かなり大きい…番犬のようだった…」
「犬がいたならそうでしょうね。だからそれで?」
どうにも歯切れが悪い物言いをする義勇に、首を傾げる音羽。すると見兼ねた錆兎が声を掛けた。
「音羽、それ以上は聞かないでやってくれ。義勇は昔…犬に尻を噛ま……」
「錆兎っ…」
少し強めの口調で、錆兎を制する義勇。そんな二人のやりとりに、音羽は大きな目をぱちくりとさせた。
「え?………まさかとは思うけど、それでおめおめと逃げ帰ってきたわけじゃないわよね?」
「ち、違う!……俺は昔からなぜか犬に嫌われやすい。すぐに吠えられたり、襲われたりする傾向がある。もし犬に感づかれ騒ぎにでもなれば、相手に警戒心を与えかねない。………だから…一度仕切り直そうとした…それだけだ……」
そう語った義勇の瞳が、悲壮感に儚げに揺れた。その瞬間、音羽の胸がキュンと音を立てて痛んだ。