第14章 擦れ違う心
屋敷の中に戻ると、ちょうど使用人の妙が出勤してきたところだった。妙は錆兎達の姿を発見すると笑顔で話しかけてきた。
「皆さん、おはようございます。……あら?昨日は音羽さんと二人でお出かけだと聞いていたんですが、冨岡さんもご一緒だったんですね?」
「いえ、義勇は昨日、たまたま会ったんです」
「はぁ。たまたま…ですか」
錆兎の答えに、妙の脳裏にある疑問が浮かぶ。
(まさか冨岡さん、たまたま会ったお二人に、空気が読めずに付いてきてしまったんじゃ……
だって冨岡さんて、ちょっと鈍感なところあるものね。
そうだとしたら…錆兎さんも音羽さんも可哀想に……)
悲痛な面持ちで三人の顔を見比べる。すると妙の目に飛び込んで来たのは、音羽の違和感を感じる顔だった。
(音羽さんの目が微かに腫れてるわっ!?やっぱりそうだ!二人だけの夜を冨岡さんに邪魔されて……それで、あぁ…なんてことなの……)
勘違いを爆発させた妄想に妙の胸が痛み、思わずに手で胸を抑えこむ。
「妙さん?」
急に黙り込んだ妙に、錆兎が声を掛ける。
「あ、はい!」
「俺達今から仕事の話しをするので、その間に三人分の朝飯をお願いします」
「はい、かしこまりました」
妙の返事を聞くと、錆兎は音羽と義勇の二人を連れて、居間へと向かう。
その途中、義勇が不思議そうに首を傾げながら錆兎に問いかけた。
「なぁ、錆兎。今、すれ違いざまに妙さんに睨まれた気がするんだが……」
「妙さんに?気のせいだろ」
妙は優しい女性だ。そんな訳もなく人を睨んだりしないだろう。
そう思った錆兎に軽く一蹴され、義勇はさらに首を傾げながら居間の中に入った。