第14章 擦れ違う心
「そうか……」
事を理解した義勇が呟く。その顔には軽く安堵したことが見て取れた。
「そうなの。心配をかけてしまってごめんなさい。それで…お願いなんだけど……、この事は錆兎には言わないで!」
「どうしてだ?錆兎なら、真剣にお前の話しを聞いてくれる。けして茶化したりしない」
「義勇、お願い!只でさえ忙しい錆兎に、余計な心配を掛けさせたくないの。しかもこんな…昔のことで…」
錆兎に隠し事するのは躊躇われるが、余計な心労を掛けたくないと言う音羽の気持ちも理解できる。
義勇は小さくため息をつくと、静かに微笑んだ。
「承知した。お前の気持ちを汲む」
「義勇、ありがとう!」
義勇の優しさに、ホッと胸を撫で下ろす。
後はこの瞼の腫れをどうするか…だが……
「義勇、帰っていたのか?」
突然義勇の後ろから声がして、驚いた音羽の喉から「ヒュッ」と音が鳴る。
声に反応して振り返る義勇の肩口から、恐る恐る視線を向ける。するとその先にはやはり錆兎の姿が……
「あぁ」
義勇が頷くと、近づいてきた錆兎が後ろにいた音羽の存在に気づいた。
「音羽、いたのか……」
驚きを見せた瞳が、次の瞬間訝しむような瞳に変わる。
これは間違いなく、瞼の腫れに気づかれた。
きっと錆兎の事だ。理由を問いただしてくるだろう。そう思い身構える。
しかしそんな音羽の予想に反して、錆兎の反応は全然違うものだった。
「お前もいたなら丁度いい。義勇、中で詳細を聞かせてくれ」
そう言い切ると、錆兎は音羽達に背を向け、屋敷へと歩き出してしまった。
「承知した」
義勇もその後を歩きだすと、音羽も拍子抜けした気分で二人を追った。