第14章 擦れ違う心
「音羽?」
「っ!?」
突然声をかけられて、音羽の身体がビクッと震える。その瞬間、顔に乗った手ぬぐいがハラリと下に落ちてしまった。
「やだっ…」
腫れた顔を曝す事態に、慌てる音羽が恐る恐る声の方に向く。
そこにいたのは………
「義勇!」
錆兎ではなく、屋敷の偵察から戻った義勇だった。
「こんな所で何をしている」
「えっ?あっ、その…顔を洗ってたの…」
近づいてきた義勇と目が合い、音羽はバレないよう慌てて目線を反らした。
しかし遅かったようだ。義勇が驚いたように小さく息を呑んだ音が、音羽の耳に聞こえてきた。
「音羽、どうした?……錆兎と何かあったか」
やっぱりまだ完全に腫れが引いていなかったようだ。義勇の戸惑うように掛けられた問いかけに、音羽は勢いよく首を横に振った。
「ち、違うのっ!これはっ……」
「違う?」
義勇の顔が怪訝に曇る。
音羽とは入隊時から共に過ごしてきたが、泣いてる姿など一度も見たことがない。そしてもし音羽が泣くとしたら、それは錆兎ととの事以外考えられない。
「しかし昨夜は、錆兎と二人だけだったはずだ……」
「ほ、本当に違うの!これはっ……」
もう疑いを晴らすには、全てを話すしか無さそうだ。幸い義勇には、すでに自分の生い立ちについて話しをしている
音羽はそう思い、昨夜の事を説明した。