第14章 擦れ違う心
「な、何よこれ〜!」
次の日の朝。鏡台の前に座った音羽は、そこに写った自分の顔を見て思わず小さく悲鳴を上げた。
目が、瞼が尋常じゃないほどに晴れている!
確かに昨日の夜は久しぶりに思いっきり泣いてしまった。さらに泣きつかれて床に突っ伏した格好のまま、眠りについてしまったのだが……
(不味いわ…これじゃバレちゃうじゃない!)
泣いたことが確実に錆兎に。
音羽は立ち上がり自分の持ち物から手ぬぐいを取り出すと、庭に面した襖を静かに明け、左右を見渡した。
幸い錆兎は、まだ起きて無さそうだ。
音羽はそそくさと廊下に出ると、縁側の雨戸を開け庭に設置された井戸に向かい、忍び足で歩みを進めた。
運が良いことに錆兎には気づかれずに、井戸まで来ることが出来た。
音羽は桶に井戸の水を汲むと、まず顔を洗った。秋も深まった井戸の水は冷たく、熱を持った瞼を冷やしてくれる。
顔を洗い終わると、次に持ってきた手ぬぐいを水に濡らして固く絞る。そして井戸の縁に座り、顔を上に向けて手ぬぐいで目元を覆った。
(どうか錆兎が、起きて来ませんように……)
そう心の中で静かに呟く。