第13章 潜入捜査・壱
「今日はその…済まなかったな。二人だけの初めてのデェトだったのに、途中から仕事みたいになっちまって……」
「ううん、別に気にしてないわ」
音羽が静かに首を振った。
自分達の仕事には人の命が掛かっているのだ。時と場合など、気にしてはいられない。
「でも…」
今日は少しだけ、気分が落ち込んでいる。久しぶりに子供の頃の知り合いに会って、姉・靜音のことを強く思い出してしまったから……
「…でも?どうした?」
黙り込んでしまった音羽の顔を覗き込む錆兎。その視線に気づいて、音羽は慌てて笑顔を取り繕った。
「な、何でもないわ!」
この事を口にしてしまえば、きっと優しい錆兎は自分を気遣うような言動や態度を見せるだろう。しかしこんな過去の話しで、錆兎を煩わせるなんことしたくない。只でさえ、柱のその責務は多忙を極める。
そう思い、錆兎の視線から逃れるように身を引く。しかし次の瞬間、掴まれた手首を強く引かれ、気づくと音羽は錆兎の腕の中にいた。
「……錆…兎」
「そんな顔して、何でもないわけがないだろ?」
何か心にわだかまりがあるのなら話して欲しい。それが他の男の話だって何だって、ちゃんと聞くから。
錆兎は苦しい胸の内を誤魔化すように、強く音羽の身体を抱き寄せた。
「ちょっと…錆兎…っ…」
そのまま身動きも出来ずに強く抱きすくめられ、音羽は錆兎の胸に顔を埋めるような形になった。