第13章 潜入捜査・壱
その瞬間感じたのは、暖かい温もりと愛しい人の優しい匂い。まだ少し恥ずかしくて慣れない。でもこの心地よい温もりに、このまま全てを忘れて縋りたくなってしまう。
ふと目頭が熱くなり、音羽は慌てて錆兎の身体を押し返した。
「ごめんなさい!今日は色んな事が有りすぎてちょっと疲れただけだから、そんなに心配しないで。……もう寝るわね」
そう言って背を向ける音羽の腕を、錆兎もう一度掴もうと手を伸ばした。しかしその腕に触れることなく引っ込める。
「……分かった。廊下の奥が客間になってるから、今日はそこを使ってくれ」
その言葉を背中で聞いて、音羽はコクリと頷くと居間から出ていった。
その後ろ姿を見つめながら、錆兎は苦しげに顔を歪めた。
(また…拒否された)
胸にまだ、音羽に押し返された感触が残ってる。そして改めて認識した。
自分はまだ音羽にとって、信頼を足るに値しない存在なのだと……
錆兎は「くそっ…」と小さく呟くと、強く拳を握りしめた。
…………
……………
音羽は客間に入るとゆっくりと襖を閉め、その場に崩れるように座り込んだ。
(やっと一人になれた……)
もう少しで錆兎の前で泣いてしまうところだった。でもこれでやっと、誰に気を使う事もなく泣ける。
「うぅ……っ、うっ…姉さん……」
我慢していた気を緩めると、涙腺は崩壊したように溢れ出した。
音羽は錆兎に気づかれぬようにと床に突っ伏すと、そのまま暫くの間静かに泣いた。
ー 潜入捜査 完