第13章 潜入捜査・壱
清昌の変わらない笑顔を見ていると、あの頃の記憶が蘇って懐かしい気分になる。
(本当にあの頃のまま……)
いつも屋敷を抜け出してきては、自分を訪ねて来てくれる清昌と、山や川、時には生家である小さな小屋の中で、囲炉裏を囲んで笑いあったあの日々。
懐かしい記憶。
そしてその懐かしい光景の中にはいつも、姉、静音の姿があった。
優しくて強くて豪快で、誰よりも気高く美しく、そして本当に大好きだった、静音姉さん
音羽の顔が段々と翳って行くのを見て、清昌が困惑するように表情を曇らせた。
「音羽、どうしたんだ?」
「ごめんなさい。少し…姉さんの事を思い出しちゃって……」
心配する清昌に取り繕うように笑顔を見せると、突然、眼の前を遮るように伸びてきた清昌の手が、音羽の頭を優しく撫でた。
「うん、頑張ったね。一人で良く生きてきた、偉いよ、音羽」
音羽の瞳が驚きに揺れる。
駄目だ、今そんな優しさを受けたら……
(………泣いてしまいそう)
でも泣けない。今泣いてしまったら、清昌はおろか、向こうで様子を見てる錆兎にも要らぬ心配を掛けてしまう。
ただでさえ、今から鬼狩りにでも行きそうな顔で、こちらを睨んでいると言うのに。
錆兎に心配を掛けさせたくない。そう思い、音羽は涙を無理矢理に飲み込んだ。
「さてと、そろそろ君を彼の元に返してやらないとね。さっきから凄い勢いでこちらを睨んでいるし」
そう言って錆兎を見る清昌の顔に苦笑いが浮かび、音羽は顔を軽く紅潮させると「ごめんなさい…」と呟いた。