第13章 潜入捜査・壱
あの時は本当に、誰かの事に思う余裕なんて少しもなかった。だから清昌にもその他の人間に何も言わずに姿を消した。
それは本当の事だが、親戚の家に預けられたと言うのは嘘だ。
本当は姉・静音が鬼に殺され、自分も殺される寸前だったところを、駆けつけた鬼殺隊士に救われた。その鬼殺隊士に拾われて、全てを捨てて隊士の道へ進んだのだ。
「だから…その、本当に…ごめんなさいっ!」
音羽が申し訳無そうに頭を下げる。
「いいんだ。君が無事だとわかったんだから、それでいい。……しかし、本当に綺麗になったね」
その言葉に音羽が顔を上げると、近づいてきた清昌の暖かな指先が頬に優しく掠める。
「うん…、静音さんにそっくりだ…」
「清昌くん…」
その音羽を見詰める顔からはもう、少年の面影はない。だけどその変わらない瞳からはあの頃のあどけない少年の面影が、記憶が蘇り、音羽は自然に笑顔を浮かべていた。
「ありがとう。私も病弱だった清昌くんが、こんなにも元気になってて…本当に安心した。…あっ…でももう…清昌さん…かしら?」
音羽が慌てて訂正すると、清昌は微笑みながら肩に手を置いた。
「いいよ、変えなくて。君にはあの頃のまま、ただの清昌として接して欲しいんだ」
そう言って優しく微笑んだ顔が余りにも綺麗で、音羽は胸がドクンと高鳴るを感じて、慌てて瞳を伏せた。
「そ、それにっ!まさか清昌くんがこんなに凄い人だとも思ってなかったから、ほんとにびっくりしちゃった」
「凄いのは僕じゃなくて、僕の家の方だ」
「でも立派に当主の座を、引き継いでるじゃない!」
「立派か……」
その瞳に自虐めいた輝きが見てとれて、音羽は怪訝に首をかしげた。
「それより音羽、一緒にいた男は恋人かい?」
「えっ!?いや…その……、なんていうか…、…………そうなるの…かな?」
改めて確認されると、果たしてそう名乗ってもいいのかと…まだ戸惑ってしまう。
戸惑うように顔を真っ赤に染めた音羽を見て、清昌がクスクスと笑う。
「君が幸せそうで良かった」