第13章 潜入捜査・壱
「まさか…初恋の相手……とかじゃないよな」
「そうだな…その可能性は捨てきれない」
「なっ!!」
思わず言葉にした要らぬ妄想と、義勇の空気を読まない返事に錆兎の顔に焦りと苛立ちが滲む。
その顔を見て、義勇は思わず口元を手で覆った。
冗談で言ったのに、まさかこんなに慌てふためいた顔で返されるとは思わず、笑ってしまいそうになったからだ。
「落ち着け錆兎。幼馴染ならあれくらいの抱擁は普通だ。それよりもこれは清昌に近づく好機」
「そんなことは…わかってる」
義勇の言葉に、錆兎は音羽達に視線を戻すと、苦々しげに応えた。
謎に包まれた清昌の内側に入り込む絶好の機会。そんなことは義勇に言われなくても理解している。
しかし何故だろうか。
このまま清昌を音羽に近づけてはいけない気がする。それは勿論、嫉妬心だけじゃない。
錆兎の鬼殺隊としての、水柱としての勘がそう告げているのだ。何か得体のしれない胸騒ぎがする。
(俺の思い過ごしであればいいが……)
錆兎は一抹の不安を拭うように、小さく首を振った。
…………
……………
「音羽、久しぶりだね。何年ぶりだろう?……最後に会ったのは、確か君が十二、僕が十五の時だから…七年ぶりか。本当に君が無事で良かった」
清昌は音羽と向き合うと、穏やかな笑顔を向けた。
「君のお姉さんの静音(しずね)さんが山で獣に襲われて、あんな酷い姿で発見されて……、仲が良かった君が後を追うように行方不明になった時、僕は胸が張り裂けそうほどに悲しんだよ」
穏やかな笑顔から、清昌の顔が悲痛な面持ちに変わり、音羽は胸がチクリと痛むのを感じた。
「……ごめんなさい。姉さんが死んだ後、私はすぐに親戚の家に預けられたの。暫くは姉さんを失った悲しみから抜け出せなくて、貴方に伝える余裕もなかった……」
音羽の瞳が悔やむように伏せられる。