第13章 潜入捜査・壱
「なぁ、義勇。アイツ、音羽の何だと思う?」
錆兎が少し距離の離れた場所にいる音羽と清昌の二人に視線を向けながら、木の幹に身を潜めた義勇に小さく話しかけた。
「?…幼なじみ…みたいなものだと、言っていたが?」
先ほど説明をされただろう?とばかりに義勇が首を傾げると、錆兎は二人に視線を向けたまま「そうなんだが…」と小さく呟いた。
あの時、音羽が清昌の事を名前で読んだ時、知り合いとわかった瞬間は本当に驚いた。どうやら清昌がまだ病弱だった少年時代、療養に訪れた東京郊外の邸宅。その近くに音羽の生家があったようだ。
ふとしたきっかけで二人は知り合い仲良くなるが、清昌は隠されるように療養生活を送っていたため、音羽は清昌の正体はおろか、名字すら知らなかったらしい。
その二人は今、「二人で話したい」と申し出た清昌の言葉に音羽が頷き、錆兎からは少し離れた場所で二人だけで話しをしていた。
「……にしては、慣れ慣れしすぎやしないかって言ってるんだ。……あっ!!」
食い入るように二人を見つめていた錆兎が声を上げると、義勇は反射的に顔を錆兎に顔を向けた。
「どうした?」
「アイツ今、音羽の頬に触れやがった。……ぶっ飛ばしてもいいか?」
「辞めろ、錆兎。アイツは鬼じゃない、人間だ」
「あっ、今度は肩を……」
錆兎の顔が不快げに歪む。
(音羽も何なんだっ!あんな笑顔浮かべやがって……、俺だってまだあんな自然な笑顔向けて貰ったことなんか………)
義勇や村田を向けられるような自然な笑顔に近い。心を許した者だから見れる表情。
錆兎も最近は笑顔を向けて貰えるようにはなったが、まだ照れたはにかむような笑顔が多い。
なのに眼の前の男は、何の違和感もなく、音羽にそんな笑顔を向けてもらえる間柄の人物。
胸の中にどうしようもないイラつきが募る。