第13章 潜入捜査・壱
「わ、我が主、外に出てはいけませんっ!危険です!」
中にいた従者の男が慌てて主の行動を制する。
「心配ない、大丈夫だ」
それに穏やかに返すと、中から一人の男が降りてきた。
音羽と錆兎の身体に微かに緊張が走る。そんな二人の前…正確には男は音羽の前に立ち止まると、その顔を食い入るように見つめてきた。
(……っ?)
まさかこんなにあからさまに興味を示してくると思わず、音羽は戸惑いの表情を浮かべつつ見つめ返した。
(綺麗な人……)
第一印象そう思った。
錆兎や義勇とも違う、何処か儚げな雰囲気を感じさせる中性的な顔立ちに透き通るような白い肌。身体は細身のスラッとした長身で、身に着けている着物や上品な所作、全てに気品を感じた。
「あの…私に何か……」
音羽が男の視線に耐えきれなくなり問いかける。しかし男は無言のまま音羽の顔を見つめ続け、確信するとふわっと表情を緩めた。
「まさか…、本当に君…なのか?」
「え?」
「音羽……、生きていたんだね?」
「っ!?」
急に名前で呼ばれ、音羽の瞳に先程より強い戸惑いの色が走る。
だって田舎育ち山育ちの自分にこんな大物の知り合いなんて、いないはずなのに……
そう思い、驚いた顔で目の前の男の顔をもう一度じっくりと見つめ返す。その瞬間、男の翡翠色の瞳が儚げに揺れ、音羽はハッとして目を細めた。
(……私…この瞳……知ってる……)
どこか懐かしげな雰囲気を持つ、翡翠色の瞳。もっと幼い頃、あれはいつのことだったか……
「あっ…」
すると突然、音羽の中に幼い頃の思い出が蘇ってきた。
「あなた…まさか……、きよ…まさ…くんなの?」
思いがけない音羽の返しに、錆兎は目を大きく見開いて、その横顔を見つめた。
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