第13章 潜入捜査・壱
やがて街の方角から馬車の姿が見えきた。馬車が門の前で停車すると、御者の男は門の前で佇む錆兎達に不審な目を向けた。
「なんだ、お前達は?」
「突然申し訳ありません。俺達は近くの町の方から来たんですが、道に迷ってしまって……、もう長いこと林の中を彷徨っていましたら…この屋敷を見つけて、もし宜しければ帰り道と、それと……少しの間でもいいので、休ませては貰えないでしょうか?」
錆兎が疲れ切った表情で御者の男を見る。それに合わせて、音羽も表情を作ると、チラリと馬車の中へと視線を走らせた。
馬車の窓には薄い垂れ幕のような物が掛かっていて、こちらからはよく見えなかった。しかしこの屋敷の主で行方不明事件に関与している可能性があるなら、音羽の存在、若い娘に興味を抱くはずだ。
すると小さく動いた垂れ幕の奥から、こちらを覗き込んでくる視線と音羽の目が合った。
(あれが……)
二十代前半の若い男。恐らくこの屋敷の主、蘇芳清昌で間違いないだろう。そう推測していると突然、御者の男が大声を張り上げた。
「そんな願い、聞き入れるわけがないだろうっ!帰り道は教えてやるから、早くこの場から立ち去れっ!!」
御者は錆兎達を追い払うように馬用のムチをしっしっと降る。すると馬車の中から声が聞こえた。
「持て」
それは穏やかで柔らかい印象を与える声だったが、御者の男は緊張が走ったように酷く身体をビクつかせていた。
それから間もなくして、馬車の扉が小さく音を立てたかと思うとゆっくりと開いた。