第13章 潜入捜査・壱
確かにその可能性は捨てきれない。今までも鬼と人間が互いの利益の為に手を組む事例は数多く報告されている。
音羽だってそんな事はわかっている。
しかし何故だろう。今はなにかが胸の奥につかえているようで、気分が落ち着かない。
そしてそのまま黙り込んでしまった音羽を横目に、錆兎は義勇に視線を戻すと問いかけた。
「義勇、それでどうするつもりなんだ?このまま指を咥えて、あの高い塀を見つめてるだけか?」
「昼間の明るいうちに外周と人の出入りを確認して、夜に塀の上から内情を探り、問題がなければ中へ忍び込むつもりだ」
義勇がそこまで言った、その時だった。
ガラガラガラ……
「待って!二人共、静かにっ!!」
俯いていた音羽の耳に、馬の蹄と車輪が回る音が聞こえてきた。
「街の方角から、馬車が来るわ!」
音羽の言葉に、錆兎は義勇に視線を向けた。
「義勇、お前の隊服を目立つ。一先ず身を隠せ。俺と音羽は当初の予定通り、中に潜入出来ないか試してみる」
「錆兎っ」
「わかってる、無理はしない。上手く行けば、お前が忍び込む時に有利な情報を得られるかもしれないだろ」
「……承知した。くれぐれも慎重に頼む」
義勇が最後に念押しする。錆兎が頷いたのを確認すると、義勇はシュッと音を立てて、その場から姿を消した。
義勇の気配が完全に消えると、錆兎と音羽は軽く身なりを確認し合い林から抜け、屋敷の門の前に出て馬車の到着を待った。